室町時代から始まったとされる奈良・吉野地方の林業。他の木材に比べ、吉野杉は圧倒的な年輪の細かさと節の少なさが昭和初期の日本人の美意識にかない、住宅などの建築部材として流通するようになった。年間出荷量約800立方メートルで、同程度の在庫も常備し、住宅用部材を主に取り扱う、吉野中央木材は「確かな品質」を求める消費者の需要に応えようと、住宅メーカーなどの業者だけでなく、一般消費者の工場見学も受け入れ、製材から加工までの工程を見せることで、“作り手のこだわり”を付加価値に加え、ブランドの価値確立を目指している。
◆幅広い年齢層に需要
大学卒業後、大阪の建築会社や東京の番組制作会社で働き、27歳で入社した5代目の石橋輝一専務(36)。「木のことは全くわからず、『家業』としか認識していなかった」と当時を振り返る。
入社後、工場で初めての製材の仕事に臨むと、途端に面白さに取りつかれた。匂いや触り心地、湿気の吸収率の高さ-。「『ほんまもん』が持つ力を実感した」石橋専務は、「これをちゃんと伝えていかないと」と決意。全国の林業家らでつくる「日本全国スギダラケ倶楽部」が毎月配信するウェブマガジン「杉」で自身も連載をもつなど、情報発信を始めた。
「木の良さをいかに残すかなど、作り手のこだわりを知ってもらうことで、吉野杉の付加価値を高めたい」と石橋専務は力を込める。
近年はそうした発信により、工務店や住宅メーカー、設計事務所だけでなく、一般の消費者の工場見学も増え、毎週のように見学者が訪れるようになった。そんな中から、「自分の目で見て、安心できるものを使いたい」という30代の家族連れから、引退後に家を建てようとする60代夫婦など、幅広い年齢層の需要が各地から寄せられるようになった。
寒冷地や温暖な地域など、それぞれの地域の特性に見合った部材を提供している。