金融政策決定会合後、記者会見する日銀の黒田東彦総裁 =15日午後、東京都中央区(宮崎裕士撮影)【拡大】
黒田東彦総裁が15日行った金融政策決定会合後の会見は、日銀の金融政策の妥当性を改めて市場に強調する内容となった。消費税率引き上げに伴う反動減は「おおむね想定の範囲内」と強調したほか、2%の物価上昇率目標も「1%を割る可能性はない」と市場の懸念を一蹴。夏場以降、成長軌道に戻るという日銀のシナリオ通りの進(しん)捗(ちょく)を強調し、不安要素の打ち消しに力を注いだ形だ。(塩原永久)
▼不安打ち消す
決定会合に先立ち公表された経済指標は、5月の家計調査の消費支出が前年同月比8・0%減となるなど、一部で民間予測を大きく下回った。「反動減は想定内」と繰り返してきた日銀の見方に、市場からは懸念の声も上がっていた。
こうした声を打ち消すように、黒田総裁は「品目やサービスにより差はあるが、反動減は次第に和らぎ、緩やかな回復基調が続く」と強調した。
賃金の増加が物価上昇に追いつかない実質賃金の目減りについては「注意深く点検する必要がある」としながらも、国内景気は「前向きな循環メカニズムがしっかり作用し続けている」と述べ、日銀シナリオの着実な進捗を示した。
▼2つの“関門”
日銀は2%物価上昇率に達するまでに2つの“関門”があるとみている。1つ目は、円安効果がなくなる今夏以降も、1%台を維持できるかどうかだ。
5月の生鮮食品を除く消費者物価上昇率は、増税の影響を除外して前月比0・1ポイント下落した。だが、決定会合では4月の展望リポートで示した物価見通しを検証し、9人の委員が示す大勢見通しの下限を、今年度1・2%と0・2ポイント上方修正した。
これを受けて黒田総裁は「見通しを変える必要はない」と断言した。夏場にいったん下がった物価が再び上昇していくという“第2関門”についても、「幅広い品目が上昇している」「デフレ下のような安売りで需要を開拓する企業行動は減っていく」として物価上昇の持続力を訴えた。
▼緩和長期化に不安
だが、景気の先行きには不安要素も残る。中でも最大の課題が輸出だ。輸出回復の足取りは日銀の想定より弱い。イラク情勢の混迷などにより、輸出の回復がさらに遅れれば、今年度後半に向けた景気の支えをひとつ失うことになる。
輸出低迷は企業の生産拠点の海外移転も一因だが、日銀は先進国を中心に世界経済が回復し、日本の輸出を引き上げると見込む。黒田総裁は、海外経済の持ち直しで「緩やかながら増加していく」と説明した。
ただ、「経済危機からの回復過程においては、成長率の回復も遅れ気味になる」とも述べた。今後輸出が回復しても、景気の押し上げ効果は限定的となる恐れがある。
また、「緩和が長く続いたとき、いろいろな形で行き過ぎが生じる可能性があるのは過去の例をみても事実だ」として、世界的に金融緩和が長期化する中、金融バブルなどへの警戒感もにじませた。黒田総裁の強気の背後に懸念の種も垣間見えた。