日本は国土の約7割を森林で占める世界でも有数の森林国だ。もともと日本人は古くから森の恵みを受けて生きてきた。森は資源としての木材を生産するほか、土砂災害防止のための国土保全機能があり、われわれの生活の安全のためには欠かすことができない貴重な資産だ。今この日本の宝ともいうべき森林・里山が荒れている。今夏の大雨は各地で土石流に起因した大災害をもたらし多くの人命を奪った。
山が荒れるのは人が出入りしなくなったからだ。昔から「おばあさんは川に洗濯に、おじいさんは山にしば刈りに」というように、森は食料や薪(まき)、炭を入手する大切な生活の場であった。
だが、人が山に入らないから害獣害鳥が増える。間伐材を放置するから木や枝が大雨で自然のダムとなり大量の水がたまる。そして決壊したそのダムが土石流となり人里を襲う。里山の整備は防災上最も大切な仕事なのだが放置されたままだ。人手もない、予算もない。
しかし、この現実に立ち向かって里山整備に乗り出した林業ベンチャーが群馬県の山間部にある。群馬県みなかみ町の里山で生まれ育った石坂哲也さんは東京で10年余り仕事をしていたが、懐かしい山の荒れる様を見て故郷に戻る決心をした。そして国の補助金を使って里山を整備できないかと考えた。が、ここまでは誰もが考えることだ。しかし、補助金は個人が所有する小規模の森林には交付されない。最低30町歩をまとめて申請するのがルールだ。30町歩とは約30万平方メートルで、小規模山主が多い地域では数十人の地主が共有している。そして地主全員から承諾をもらう必要がある。山だから登記簿も古いものが多く、現在の所有者が亡くなっている例も少なくない。これがこの事業の最大の難関だった。