■企業広報の反面教師に
朝日新聞が依然、各メディアから袋だたきにあっている。慰安婦問題や東京電力福島第1原発事故をめぐる政府事故調のいわゆる「吉田調書」報道で“誤報”を認めて、おわびしたのだが、それがまた中途半端だったとして、朝日としてはドロ沼にはまり込むように各メディアの餌食になった。ただ一企業の不祥事対応としてこの朝日問題をみれば、各企業にとっても“他山の石”として今後の参考になる点は多いはずだ。
事の起こりは8月に朝日自身が「慰安婦問題での報道検証」として特集を打ったことだ。ここで32年前の「吉田清治氏の発言」を事実ではなかったとして関連記事の削除、慰安婦と挺身(ていしん)隊の混同の誤りなど、自らの報道の非を認めたことから始まる。しかし、この時点では、非を認めたものの、それを32年間も是正せず読者や社会を混乱させてきた罪を何らわびることなく、傲然(ごうぜん)とした姿勢を維持したことだ。
それを指摘したジャーナリストの池上彰氏が朝日での定期コラムで、朝日批判の記事を書いて掲載拒否にあった。火に油を注ぐとはこのことだろう。
次に「吉田調書」が発表されることになり、5月に独自スクープとして報じた内容に白と黒ほどの誤りが分かり、これには木村伊量社長が急遽(きゅうきょ)、記者会見を開き、訂正とおわびを行った。しかし、訂正には平身低頭だったが、関係者へのおわびを含め、読者、国民への誤報による迷惑、悪影響への深いおわびにはほど遠い会見だった。
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どうしてここまでひどい朝日批判の旋風が吹き荒れたのだろうか。新聞として、虚偽の報道をしたという不祥事を自ら発表して、その対応で生じた齟齬(そご)で不誠実さがあらわになり、火に油を注いでしまった。普通の企業に当てはめれば、広報戦略を大きく間違えてしまったのだといえる。