「IT(情報技術)が分からないという企業経営者はすぐに退任していただくべきではないか」-。
昨年12月から始まった経済産業省のある審議会でそんな過激な発言が飛び交っている。発言の主は元NTTドコモ取締役で慶応大学大学院特別招聘(しょうへい)教授の夏野剛氏だ。全てのモノがインターネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)時代を目前にして、日本の産業競争力の低下を懸念する発言が相次いでいるのだが、そうした強い危機感を日本の産業界全体でどこまで共有できているのだろうか。
普段、筆者が取材対象としている建設、不動産、住宅などの主な企業で、経営トップがIT戦略を語れるのはコマツ元社長の坂根正弘氏ぐらいしか思い浮かばない。役員クラスまで広げると、三井不動産、積水ハウス、建築設計最大手の日建設計などにキーマンはいるが、経営トップにITセンスがないとやはり思い切った戦略を打ち出すのは難しい。
日本経済がデフレに陥り、低成長が続いた「失われた20年」は、同時にIT分野で日本企業が負け続けた20年だ。1992年に日本でも商用サービスが始まったインターネットで世界経済は劇的な変化を遂げたが、そうした構造変革に日本企業は対応できなかった。ITのプラットフォームをことごとく米国企業に牛耳られ、IT分野に力を入れた韓国やインドの経済は大きく飛躍した。