□ホールマーケティングコンサルタント、LOGOSプロジェクト上級研究員・岸本正一
■「益」求めない感覚を取り戻す
遊技業界というフィールドを中心にマーケティングの研究を続けている筆者は、近年の遊技参加人口の減少トレンドについて、必ずしも射幸性の高さ(時間あたりの消費金額の多さ)だけが原因ではないという解釈に妥当性を見いだしはじめた。論点は娯楽における「益」についての考え方にある。
社会が豊かになり、世の中に娯楽が氾濫しだすと、娯楽の本質は“娯楽の選択”から始まる。娯楽の多様化が消費者のセグメント化を進行させ、選択したセグメントにこだわりを持つことにマニア的快感を得る人々も増加する。すなわち「娯楽の多様化の進行」だ。これだけでも昔から存在する娯楽の1セグメントに過ぎないパチンコ・パチスロの参加人口が減少する理由の一つになるだろう。
しかしながら、それ以上に重要なのは娯楽の選択行為における消費者マインドの変化だ。そもそも娯楽とは、非生産的で有形の「益」を伴わないものが多い。この例で筆頭に挙げられるのが“釣り”だ。魚を得ることだけが目的であれば地引き網を使うはず。たった1本のさおで海や川に繰り出すのは、そのプロセスに面白みが存在するためであろう。だが、現代社会における(特に若年層の)価値観は、年々無駄を許容しない方向に変化しているように思われる。事実、通信技術の進歩はeコマースを拡大させ、消費者は店舗に出向くという無駄を省いて商品を手に入れている。