□西郷国際特許事務所所長・弁理士 西郷義美
ネット世代は革新的な思考能力を持つ優秀な世代でもある。これらネット世代の能力や、ネットそのものの機能を活用して、成功を収めた企業がある。
金の探査掘削会社が、自社の権利地区で金鉱床を発見できず長年苦慮していた。企業に残された時間はわずかだった。そこで懸賞金1億円をかけ、ネットで金鉱床の探査法を募集した。タブーとされてきた企業の資料やソフトを全てネット上に公開したのである。
その試みは大ヒットした。世界中から数多くの応募があり、金鉱床の探査が成功し、くだんの金の探査掘削会社は業績が30倍にまで拡大したという。応募の内容はさまざまだが、IT(情報技術)を駆使したものが多く、中でもグラフィックス技術応用のものには目を見張ったという。このようなIT応用の技術や、その探査方式、探査機器は特許として成立する可能性が高い。
しかし思いつきだけでは、特許成立は難しい。アイデアを特許権まで育てるには、いろいろな専門家の後押しも必要だろう。その努力の結果、特許権が発生すると特許権は協力者による共有ということになる。ただ、この特許権の共有には、メリット・デメリットがあり、注意すべきポイントがある。
共有のメリットとしては、共有者が全員で事に当たるので、人的にも、経済的にも、各人の負担分が少なくなる軽負荷のメリットがある。ところが、こんな事例があった。
ベンチャー企業が大企業と、ある発明に関し共同で特許出願をし、権利化し共有となった。ベンチャー企業は、大企業が末永く喜んで取引してくれるものと勝手に考えていた。仲が良いうちはその通りだった。しかし、しばらくすると大企業が製品の下請け価格を下げ、あげくの果てにベンチャー企業との取引をストップし、別の下請け会社に発注してしまい(共有者は自由に実施できるため)、最終的にベンチャー企業は取引を失ってしまった。
共有者の特許発明の実施は、持ち分の比率にかかわらずに、発明の全部を実施できる。土地の共有などと異なり、特許権の場合は持ち分のみの実施では実施の意味を持たないからである。例えば、半分だけの実施では発明の成果を得ることはできない。以前、0.1%の共有を持ちかけた青色ダイオードの発明者がおられたが、なかなかのくせ者である。
さらに、持ち分の権利譲渡や持ち分の実施権の許諾では、他の共有者の承諾を得なくてはならない。新たな共有者によって残りの持ち分が毀損(きそん)される恐れもあるからである。切れる刃物ほどいろいろな使い方がある。研究を欠かすことは、企業の生き残りの道をふさぐことになり、命取りとなる。
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【プロフィル】西郷義美
さいごう・よしみ 大同大工卒。1969年オマーク・ジャパン入社。75年祐川国際特許事務所に勤務。76年西郷国際特許事務所を設立。2008年4月から日本弁理士会副会長を1年間務めた。弁理士と特定侵害訴訟代理人の資格を持つ。69歳。