最近は日露戦争の資金調達と当時のロンドン金融市場について講演する機会が増えた。『坂の上の雲』の根強い人気をみてもわかるが、日露戦争は日本が勝った戦争であるだけに今でも大変人気の高いコンテンツである。
現代の金融市場のおおよその骨組みは金本位制によって為替が安定していた20世紀の初頭にはすでに完成されていた。高橋是清が奔走して国際金融市場で募債した外国国債によって日本は戦費を調達し日露戦争を戦った。日露戦争の成功譚はそこまでだ。実は積み上がった国家債務はその後の日本の財政をひどく圧迫することになったのだ。
ところがその約10年後に欧州で第一次世界大戦が勃発したことによって日本の巨額の国家債務は救われることになる。「遠隔地の戦争景気」によって日本は欧州に物資を輸出するとともに、列強のいぬまにアジアの市場に進出し外貨を稼げたからである。また船舶需給の逼迫(ひっぱく)から海運は大もうけのビジネスとなり、日本にもにわか成金が大勢誕生することになった。また一方でこれもまた「遠隔地の戦争」であった米国は戦争で疲弊した英国から世界覇権を奪い取ったのである。