■社員教育は個人、企業、顧客を幸せに
ある企業の幹部研修を行ったときに、年配の部長が号泣し始めた。別の部長は思いを込めて発言した。「私は希望を持ってこの会社に入社したのに、長い年月のうちにその熱い思いを忘れてしまっていた。若い人たちの成長のためにもう一度頑張りたい。学んだことを必ず生かす」-。この部長たちの思いと同じように、数多くの職場でその能力を十分に発揮できていない人たちが大勢いると感じる。効率重視で人員がカットされ、中間管理職は業務に忙殺されて疲弊し、モチベーションが低下している。活力を取り戻さなければいけない。
私は、シャンパングラスタワーの例えをよく社員に話す。タワーの一番上から自分自身、家族、同僚・パートナー、顧客の順である。
シャンパンはまず、自分が満たされないと、家族、職場に伝わっていかない。あふれたシャンパンが3段目の職場まで満たされた状態で、やっとそれがこぼれて顧客に伝わる。個人から始まって自分自身の職場が幸せに満たされていなければ、顧客を幸せにすることはできないのだ。顧客第一を標榜(ひょうぼう)しているのに、社員をモノ扱いしたり、社員以上に顧客を大切にしたりする状態が果たして正しいのか、とても疑問なのである。
職場が活性化し、働く幸せで満たされるためには、もちろん売り上げや利益の事業目標が大切である。しかし初めに、自分たちが何のために存在しているのか、使命を認識しなければならない。当社は何年も勉強会を繰り返し、会社全体で学んできた。私は極力、売り上げ・利益の話をせずに、どうしたらみんなが幸せに仕事ができるか、顧客を幸せにできるかなどを、他社の事例をひもときながら学習してきた。その結果、社員の一人一人が自分で考え、自立的に行動することが多くなってきた。