■変化に対応できる人材育成を
5月の大型連休前のある日、人事部に呼ばれたA氏は「世の中の変化に対応する中で、A氏の業務がなくなる」と告げられた。A氏は、入社以来積み重ねてきた経験、知識が役に立たなくなったことを悟り、クビを言い渡されたように感じて重い足取りで帰宅したという。
2008年のリーマン・ショック以降、事業の選択と集中の動きが加速した。その責任が会社にあるのか、それとも個人にあるかは一概に言えない。しかし、不確実で複雑な、変動の激しい曖昧な時代の中で生き延びていくには、働く人たちが変化していかなければならないのは確かなようだ。
ダーウィンの言葉通り、「生き残るのは強いものではなく、変化していくもの」なのである。生産性向上やコスト低減は大切だが、それ以上に新しいサービスや商品、仕事を生み出す想像力といったイノベーション(技術革新)が求められている。同時に、イノベーションを生み出せる人材を輩出する人材育成が注目を浴びている。
米ラスベガスで2012年1月に開かれたASTD(米国人材開発機構)テックナレッジという技術系の人材育成カンファレンスに参加したとき、大手会員制交流サイト(SNS)の人材開発マネジャーの基調講演が印象的だった。
「当社にはエンジニアという一つの職種しかない。経営者も、経理も、営業も、ソフト開発者もすべてエンジニアだ。そして、いま行っている仕事から、全く別の仕事に急に変わっても耐えられるように人材を準備するのだ。現在のような変化の激しい環境の中でのキャリアプランはジャングルジムを上るようなものだから」と話したのである。