■米人材開発機構 今後の人材育成示唆
ASTD(米国人材開発機構)は、人材育成と組織開発の両面で世界最先端の研究や事例発表を行っている。100を超える国・地域に4万人以上の会員を持つ世界最大のNPO(民間非営利団体)であるASTDは今年、設立70周年を迎えた。年1回開催される大会には1万人以上の専門家が集い、ここで話された教育手法や組織運営の仕方が日本でもブームになることがある。それだけ先見性がある場所なのだ。私は日本の多くの専門家の皆さんとともに、米国のASTD本部と交渉を行い、2008年にASTDジャパン設立へこぎつけた。
ASTDに目をつけたのは、日本のエンジニア教育に総合的に応用してみたいと考えたからだ。当時、エンジニア育成に限界を感じ始めていた。多くのエンジニアを育ててきたが、技術・スキルだけでは現場で求められている技術者像に程遠く、コミュニケーション力をはじめとするヒューマンスキルを併せた統合的な人づくりを目指すことに目覚めた。
過去のASTDで注目されたもので、日本にも取り入れられている手法が数多くある。例えば、対話によって自発的・自立的な人材を開発する「コーチング」「メンタリング」、パソコンやインターネットを活用する「eラーニング」、グループ活動を中立的に支援する「ファシリテーション」などだ。ASTDのスタート時の趣旨は人材の教育・訓練だったが、徐々に自立的な学びとパフォーマンス改善という傾向になり、さらに最近は社員を大切なタレントと考えて採用から配置、育成、退職に至るまでを統合的、戦略的にマネジメントする考え方に進歩してきた。ASTDで発表される内容をフォローしていれば、5年先までの人材育成のヒントが見えてくる。