■仕事の成果を決める能力3階層
米ハーバード大学のマクレランド教授が提唱した氷山モデルというものがある。人の能力の3階層と呼ばれるモデルで、最上位は知識・スキル、真ん中に位置するのがコンピテンシー(行動特性)、最下層は人間力・価値観・モチベーションなどが該当する。
最上位の知識・スキルの習得には、長い期間はかからない。一方、真ん中のコンピテンシーは、成果を出すために特有の行動特性を設定し、社員の行動を変えていこうとする動きであり、これを習慣化するには数カ月単位の期間が必要になる。さらに、最下層の人間力・価値観・モチベーションは長年の経験によって形成されるので、3~10年単位の時間がかかるといわれている。マクレランド教授によれば、最上位の知識・スキルよりもその下の行動特性や価値観などのほうが、はるかに成果に影響を与えるという。
昨年、あるIT企業の新入社員と職場内教育(OJT)リーダーの合同研修を開いたときに、新入社員の目標設定のほとんどが、仕事に直結する短期的な資格取得、知識習得などのスキルアップ項目に集中していた。そこで「マクレランドの氷山モデル」を引き合いに出し、バランスの取れた目標設定を勧めた。
具体的には、単に知識や問題回答能力が学生時代に優れていたとしても、社会で活躍するためにはチームワークを重んじ、お客さまを大切にする気持ちなどの行動特性が重要であること、そして一人一人の価値観が大切であること、それは個々に違っているほうが多様性の面から良いことを説明した。
OJTリーダーからは「このように目標設定すればいいんだ」という感嘆の声があがり、新入社員の一人は「資格取得だけでない部分も非常に大切だと知って元気が出た」と目を輝かせた。