■自立的な学び生かす研修を
日本人はサービスに高い品質を求める傾向があるため、研修においても、口まで食事を運んであげる、いわゆる「スプーンフィーディング」的な研修サービスになってしまう。テキスト、先生、カリキュラム、研修運営など、すべてに完璧を求めてしまうのだ。しかし、してもらうことばかりの学習環境では学んだ知識が定着しにくいし、刺激や気づきの少ない学びの場になってしまう。行き過ぎた研修サービスが人々の自立的な学びを阻害している可能性もあるのではないか。
近年、私が行っている研修では、意図的に主要なある1章を抜いたテキストを使用することがある。その削除された部分について、その場に集まった受講生が持っている知識、経験、気づきなどの対話を通じてまとめていくのである。やがて20~30分もすると通常の入門書に書いてあるレベル以上の内容がクラス全体で共有される。
講師は抜けた部分があればフォローすればいいし、さらに一歩進んだコメントを付け加えてもいい。もしテキストからその内容を除外しないで、20~30分かけて説明したら、受講生の右の耳から左の耳に抜けてしまうだろう。創発的な相互学習スタイルの方が、圧倒的に効果が高いのは明白だ。
昨今、研修のスタイルは参加者が互いに学び、教え合うワークショップ形態を多く取り入れている。講師・インストラクターの役割は、中立的に議事進行を促す「ファシリテーター」としての働きが大きくなりつつある。「教育ファシリテーション」という言葉も使われ始めた。これは不確実で複雑な、変化の早い世界において、学ぶ内容に必ずしも正解があるとは限らないためで、画一的な学習スタイルだけでは対応できなくなってきたのである。