■学び方に改善の余地はないか
学びのアプローチが変わってきている。その要因になっているのがIT革命である。2006年にサルマン・カーンによって設立された非営利の教育Webサイトである「カーンアカデミー」のように、貧しい子供たちでも無料で教育が受けられる仕組みがネットワーク上で次々と構築されている。
パキスタンの少女、ハディージャ・ニアジさんは、オンラインで米スタンフォード大学の人工知能講座を10歳のときに受講し、優秀な成績で修了した。今や知識はコモディティ(均質)化し、無料で獲得できるようになってきた。意欲がある人は、高い授業料を払って著名な学校を出なくても、自分たちの周りにあふれている学びの機会を自ら引き寄せることができる。
20年前に米シスコシステムズのジョン・チェンバース社長が「インターネットは教育の格差を埋める」と宣言し、実際にその社会が到来したのである。
学校や企業で誰かがプログラムした内容を、きちんと意図された通りに学ぶプッシュ型の教育は確かに効率的で、多くの学習者のレベルを引き上げられる。しかし昨今は、学習者自身が自分で情報にアクセスして、情報コンテンツだけでなく人的ネットワークを自ら構築し、主体的に学ぶプル型のアプローチが注目されている。やらされ感のあるプッシュ型に比べ、はるかに効果的である。
人から強制されることはなく、自分にあった方法を選択できて学び方にも制限はない。目指すべき状態(決して資格試験で何点を取るとかいうレベルだけの話ではない)に向かって自己研鑽(けんさん)、相互研鑽を繰り返していくのである。いわば航海の旅のようであり、その際に思いもよらなかった気づきや発見に遭遇する。これをセレンディピティ(意外な可能性を発見する能力)の学びとでも表現しよう。