■価値観に働きかけ行動変える
「ユーザー体験」(UX=User eXperience)という概念がある。商品やサービスを売るだけでなく、お客さまがそれを使うときの体験そのものを重視する考え方だ。米アップルに在籍したドン・ノーマン博士が提唱した。もちろんアップルだけでなく、他社の多くの製品・サービスにこの概念が組み込まれた。
私は研修にもこの考え方を応用すべきだと考え、「学習者体験」(LX=Learner eXperience)という概念を考案して研修をデザインし、開発、提供するようにしてきた。その結果、学習者の価値観や心に影響を及ぼすようなインパクトをつくり出し、行動変容が起こりやすくなったと実感している。
学習者体験で大切なのは、学習者一人一人の多様性、その人が持つ価値観をまず大切にすることである。個々の価値観を会社の価値観一色に塗り替えるのではなく、個々の考え方や価値観を重視したうえで、会社の価値観や伝えたい価値に共感してもらう。このときに参加者全員を変えようと思わないことだ。そこが強制的な考え方、価値観の押しつけと本質的に異なる。
多くの人たちが学習者体験の概念を学び、カリキュラム内容や講師の質だけでなく、受講者一人一人の価値観を尊重しながらも、心に一生残るような学びの時間をつくりだすことに力を注げば、研修の効果は倍増していくと確信している。
もちろん参加者の価値観を、「会社が重視している価値観一色に染め上げればいいのではないか」という見方もあるだろう。日本の老舗の大企業は新入社員を採用し、企業の価値観を埋め込んできた。リーダー育成などでは、公衆の前で大声を出させたり、野外でグループワークを体験させ、厳しい統制を強制したりする訓練もある。