体操男子の内村航平選手をはじめ、リオデジャネイロ五輪に出場した日本人選手たちは誠実で周囲の人々への感謝を忘れない。先頃、メジャー通算3000安打を放ったマーリンズのイチロー選手もそうだった。弛(たゆ)まぬ努力を重ね、記録を達成しても謙虚で絶対的敬意を他人に求めない。彼らは連綿と続く日本的な無形の価値を再認識させる。
無形の価値の対象は国や民族で異なる。「多様性を重んじる米国では道徳的なものにではなく、アフリカ系米国人の自由平等実現に奔走したキング牧師やアメリカンドリームを体現した投資家のウォーレン・バフェットやメジャーリーガーのデレク・ジータ、イノベーションを起こしたアップル創業者のスティーブ・ジョブズらに認めているかもしれない」と米国の知財弁護士は言う。
無形の価値を産業や社会の競争力を図る指標に用いる考え方がある。例えば知的資産経営では、企業における技術力やブランド力に加え、企業理念や人のネットワークが評価対象とされている。地方創生では目に見えぬ伝統文化や地域風土が知的資産として欠かせない。では日本的な無形の価値は、グローバル社会が進展する中で将来どこまで有効なのか。日本人は産業、文化、スポーツで成功を収め続けられるだろうか。
特許庁は制度や人材が整わずに知財業務が遅れている新興国に、日本人審査官を派遣して日本と特許庁のプレゼンスを高める活動をしている。「欧米審査官よりも緻密だ」(特許庁審査官)という日本人の審査手法や審査能力にも無形の価値がかかわっている。