■時代に合わせた生活感をスクリーンに
胸に秘めた情熱は父譲り。信念を抱いて前を見据え、大切なもののために手元を緩めることはない。愛するということは自らの責任を全うすることであり、本当の優しさとは強いことであると、家族の生き方を見つめて心に刻んできた。映像のすみずみには、作品に携わった人たちの手の跡がありありとしるされ、身を砕くようにして注いだそれぞれの思いが、画面からはみ出すような力を生み出すことを目の当たりにしてきた。
「スクリーンの大画面の中には、すべてが映っています。誰がどんな仕事をしたのか、手の内がすぐに反映されるのです。着物の袖口や裾、襟元からのぞく襦袢(じゅばん)の色など、小さなことにも徹底して意を注いで、衣装や衣装デザインが自ら主張するのではなく、監督が作ろうとする世界に寄り添い、演技を助けるものになればと思います」
昨年、フランスのカンヌ国際映画祭で審査員賞を受けた「そして父になる」(是枝裕和監督)では、福山雅治が演じるエリートサラリーマンと、粗野だがにぎやかな家庭を築いてきたリリー・フランキーの2つの父親像を何気ない日常の服装一つにも象徴させて、物語にいっそうの奥行きを与えている。
「人それぞれにワードローブがどのようになっているのか違います。主婦感覚で街をめぐり、その人の身になって歩き回ります。福山さんたちが演じるセレブ志向の夫婦は、これくらいなら背広にお金を払えるだろうと考えてみるのです。世間体などにも気を配って色合いはモノトーンになると想像できますし、一方のリリー・フランキーさんの家庭は着ているものに全く無頓着で、日常の買い物先も見えてくるようです。監督が思い描くもの、作品が求めるものは何かを探すのです。映画は感性と勘を働かせる仕事だと思います」