なぜ筆を執るのか
梅沢和木は、日本でもっとも若い世代に属する画家だ。いま「画家」と書いて気付くのは、わたしたちの生きるこの世界では、もう手を使って文字を書いたり絵を描いたりすることよりも、パソコンのキーを叩(たた)いたり、アイコンをクリックしたりするほうが、ずっと身近になっているということだ。
かつて画家とは、あらゆる人がなしていた「書く(線を引く=ドローイング)」「描く(色を塗る=ペインティング)」といった日常茶飯事を、芸術の域にまで高める能力を持つ者のことを指した。けれども今、画家の持つ技能が社会で果たす役割は根底から変わってしまった。
「叩いたり」「クリックする」だけで生活の大半が片付いてしまう世の中で、なぜ、わざわざ筆を執って描くのか? 今日、画家はそんな問題に直面している。
絵画たりえぬ証明を
いちばん安易な解決の仕方は、絵を描くのに筆など使わないことだ。コンピューターが発達した現在では、モニターを睨(にら)みながらマウスを操作するだけでも、たいていの絵は描けてしまう。手を使って「書く/描く」のが絵画の条件なのであれば、それでも十分、絵画たりうる。旧来の水準での鑑賞が可能な芸術性を持った作品もめずらしくはない。