【本の話をしよう】
≪心理を甘く書きすぎないよう意識≫
直木賞受賞から約3年。独自の時代小説に挑み続ける作家、木内昇(きうち・のぼり)さん(46)が、新作となる長編『櫛挽道守(くしひきちもり)』を上梓した。幕末の木曽を舞台に、櫛づくりに生涯をささげる一人の女性の道を、まっすぐにたどる。
軋轢や息苦しさ
木曽山中、薮原宿。中山道沿いの小さな宿場町で、一帯の名産品である「お六櫛(おろくぐし)」を作り続ける一家がいた。長女の登瀬は天才的な職人である父・吾助の仕事ぶりを見て育ち、女ながらに「いつかは自分も櫛を挽きたい」との思いを抱くようになっていた。ある夏、まだ12歳だった弟の直助が急逝するとともに、平穏な一家がきしみ始める-。
「家族を描きたい、という思いが最初にありました。登瀬の一家は、山中の宿場町で、黙々と櫛を作り続ける。外に出て行くこともなく孤立していますが、ある意味ではとても純化した家族といえます。現代ではすぐに家族から離れることはできますが、当時はすごく家が閉ざされていた。そんな中の軋轢(あつれき)や息苦しさを描きたかった」