7つ年下の祐子さんとは、お見合い結婚だった。1男1女を授かり、「人並みの幸せ」を2人ですごした。定年を迎え、新年度からバスの運転手として再就職する前で、「これからはまたのんびりドライブや旅行でも楽しもうね」と、2人で話をしていた矢先に震災が起きた。
祐子さんはパート先の女川湾近くの銀行の支店にいた。支店の目の前は山で、中腹には4階建ての病院もある。がれきに阻まれ、支店にはたどり着けなかったが、遠くからでも病院の明かりは確認でき、無事を信じて疑わなかった。
だが、病院に妻の姿はなかった。避難者らに聞けば、行員らは2階建ての支店屋上にいて流されたという。「どうして山に逃げなかったんだ」。今でも、悔しさがよみがえってくる。
携帯の電源を入れると…
震災前は仕事から帰ると、2人で杯を交わすのが楽しみだった。「帰ってきたときが、一番寂しさがこみ上げますね」。それでも「自分は負けない」と前を向いてきた。その理由が支店のがれきの中から見つかった祐子さんの携帯電話にある。