「死者の町」に立つ大きなドーム型の霊廟(びょう)。町にはこうしたマムルーク朝時代(1250~1517年)の権力者の墓所が点在する=2015年2月17日、エジプト・首都カイロ(今井竜也さん撮影)【拡大】
足を踏み入れたときから少し異様な雰囲気を感じていた。人通りが減り、徘徊(はいかい)する野良犬のまなざしが、こちらの警戒心を高めさせる。
都市圏全体で2000万近くの人々が暮らすエジプトの首都、カイロ。このアラブ世界およびアフリカ大陸最大の都市には、「死者の町」と呼ばれる場所がある。2011年にムバラク大統領を退陣に追い込んだ民主化デモの拠点、タハリール広場から東に約5キロ、ムカッタムの丘の下に広がる長さ1.5キロ、幅1キロほどのエリアだ。
そこは死者が眠る墓地で、貧困のため生活苦の人たちが多い町である。墓地には小さな墓碑の一般の墓から、大きなドーム形の廟(びょう)まである。廟にはキッチンやトイレなど人が生活できる設備があり、それを目当てに無許可で住みつく人や、墓守として依頼を受けて暮らす人もいる。カイロの急拡大に伴う住宅難や、経済事情によってこの地域に人々が集まり、現在では2万人以上が暮らしている。
地域の建築物は保存状態が良いものが多く、古いものでも十分住めるのだろう。町の中を歩いてみると、商店や工房、小学校もあり、生活感が漂う。衛生環境は決してよくないが、それでも町の人々は気さくに話しかけてくれたり、エジプト人がよく飲む、砂糖たっぷりの紅茶をごちそうしてくれたりと、とてもフレンドリーだ。