まるで水中からロケットが飛び出してきたようだった。
知床半島羅臼沖。海面すれすれの船尾デッキに立ち、カメラを水中に入れて撮影を試みた時だ。目の前の海面に1頭のシャチがスーッと浮上してきた。白黒の小さな丸い口先が浮き上がるごとにみるみる膨らみ、やがて両手で抱えきれぬほど太い頭が海面を割って姿を現した。
スパイホップ。シャチが海上に顔を出し、その目で外の様子を偵察する行動だ。
思わずのけぞり見開いた僕の目と、妙に小さなシャチの目がパシッと合った。こちらが見ているだけではない。完全にシャチに“見られている”と思った。
これまで何度もスパイホップをするシャチと遭遇してきたが、これほど近くで、シャチに観察されていると感じたのは初めてだった。
「あなたは誰? そこで何しているの?」
僕にはその視線がそう問いかけているように思えてならなかった。飛び切りの好奇心の持ち主は、しっかりとヒトを観察し、再び時間を巻き戻すように海に沈んでいった。