【石平のChina Watch】
中国に「武漢鋼鉄公司(武鋼)」という大企業がある。従業員数は約9万人、生産規模は世界鉄鋼業界4位を占めるという、中国の代表的な鉄鋼大手なのである。
その総経理(社長)であるトウ崎琳氏が2日、地元新聞の『長江商報』の取材に応じて、次のような「面白い話」をしている。
トウ総経理はまず、「中国の鉄鋼業はすでに厳冬期に入り、それが今後5年も続く」と指摘したうえ、武鋼としてそれを乗り越えるために「多角経営に乗り出すしかない」と語る。そして、彼の口から出た多角経営戦略の「目玉」はなんと、「養豚・養鶏業への進出」である。武鋼はすでに養豚・養鶏場の建設用地を確保して準備を急いでいるという。
世界4位の鉄鋼大手が養豚・養鶏に手を出すとは、まさに吃驚仰天(びっくりぎょうてん)の大珍事だが、それにはそれなりの理由がある。
過去数十年間、中国の高度成長とともにすさまじい発展を遂げてきた鉄鋼産業は、2010年から下り坂に転じた。たとえば鉄鋼業界の利益率は04年の8・11%をピークに下降し、10年は2・57%と、全国の工業各分野の中で最低レベルとなり、11年にはさらに下がった。今年に入ってからも、鋼材市場は消費が伸び悩み、価格は継続的に下落し、在庫だけが急速に増えている。中国鋼鉄工業協会の発表では、1月末時点で全国26カ所の主要鋼材市場での鋼材の在庫量は1574万トンと、前月から22・2%増加したという。