「チャイナプラスワン」という考え方は、この10年の間に日本企業の間ですっかり定着した。中国での生産を続けながら、それ以外の国にも拠点を確保して一極集中のリスクを減らすという発想だ。
反日デモなどのカントリーリスク対策もとりながら、企業にとっては人件費の上昇が急な中国で生産するメリットが薄れたことの影響が大きい。
「チャイナプラスワン」の受け皿である東南アジア諸国連合(ASEAN)でも、人件費の上昇は顕著だ。この地域における日本企業のサプライチェーンの中核であるタイでは、賃金水準がこの2年で30%上昇した。これはインラック首相の最低賃金引き上げ政策によるもので、今年1月には最低賃金が全国一律で1日300バーツ(約960円)に引き上げられた。
「全国一律」という政策が、タイにおける日本企業の戦略に及ぼす影響は大きい。タイ国内にいる限り、首都バンコクを離れて地方に進出しても賃金水準は大きく変わらなくなる。タイの失業率は1%以下で推移しているうえ、日本並みの少子化が進んでいる。今後も労働市場での需給はタイトなままだろう。
バンコクの労働者の賃金は月額で345ドル(約3万6000円)と、深センの329ドル、大連の326ドルなど中国の工業都市を上回っている(日本貿易振興機構調べ)。人件費の比較だけであれば、タイの優位性は薄れてきている。政治の不安定さもマイナス材料だ。