【視点】産経新聞論説委員・長辻象平 国とエネルギー

2014.2.11 05:00

 ■チェルノの5年後、ソ連は消えた

 こんな夢を見た。

 大型ジェット旅客機が飛行中、乗客が騒ぎ出した。「大量の可燃物を搭載しているのは危険だから燃料を捨てるべきだ」というのだ。

 燃料がないとジェット機は飛べないと機長は説得するのだが、乗客は「グライダーは、燃料なしで飛べるではないか」と、頑強に主張した。「しかもクリーンで環境にやさしい飛行機だ」と言い募る。

 機長はやむなく燃料を捨てた。それでもジェット旅客機は墜落しない。

 乗客はしたり顔で快哉(かいさい)を叫ぶ。「そらみろ。燃料なしでも飛べるじゃないか。しかもスピードは増している」と。

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 脱原発派の人々は「原発が1基も動いていない現状でも、電気は足りている」と言っている。「景気さえよくなっている」と胸を張る人もいる。

 確かに、まだ大停電は起きていない。

 しかし、国全体では大変な事態が進行中だ。2011年から始まった貿易収支の赤字が3年連続で続いている。

 11年が2兆5000億円、12年が6兆9000億円で、13年は11兆5000億円に肥大した。負の倍々ゲームを思わせる状況だ。

 年間での貿易赤字を記録したのは第2次石油危機の1980年以来、31年ぶりのことだった。

 この赤字が始まった2011年は、3月に津波による東京電力の福島事故が起きた年である。13カ月ごとに行われる定期検査で運転を止めた原発は、そのままとなり、次第に停止原発が増していった。

 それでも、これまでの夏と冬の電力需要の増大期に不足による大停電を経験していないのは、電力会社が必死になって火力発電所をフル稼働させているためだ。

 廃止寸前の老朽発電所までを現役復帰させている。その結果、原発の穴埋めをしている火力発電用の液化天然ガス(LNG)や原油などの輸入量が増大し、貿易赤字を常態化させてしまった。円安も輸入価格を押し上げた。

 本来なら円安下では、輸出が有利になってバランスがとれるはずだが、それが起こらない。日本の製造業の海外移転が進んでいるためだ。

 ジェット旅客機の夢に話を戻すなら、機体の復元バランスが回復しない状況だ。高度は低下を続けている。

 貿易赤字が始まる数年前までは、毎年10兆円前後の貿易黒字が継続していたのだから、実質20兆円のすさまじい急降下だ。

 しかも、昨年10月分からは、ついに、経常収支まで赤字が続くようになった。操縦室で赤ランプが点滅し、警報が鳴り始めた状態に相当するだろう。

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 現代社会は、膨大なエネルギー利用によって支えられている。衣食住から交通通信、生産労働、経済金融までを含む社会システムそのものが、大型ジェット旅客機化しているのだ。

 その結果として、大量の物資と情報の高速流通が、先進国や新興国での日常になっている。途上国もこの方向を向いている。大量のエネルギーによって、70億人の世界人口が暮らしている。

 グライダーは気流に乗って飛べるが、運べる人員は限られる。速度においても距離の点でも、大型ジェット旅客機に取って代われない。

 原発は、大事故を起こすととんでもないことになる。だが、エネルギー資源のない日本での即原発ゼロの選択は、飛行中の大型ジェット旅客機の燃料を捨てる決断と大差ない。

 原発に取って代われるエネルギーがあればよいのだが、再生可能エネルギーはグライダーに近い。大勢の人は運べない。

 こうしたことは本来、為政者が国民に語るべきことだ。非難を浴びても10年か20年後に、あのときの判断で今があると感謝されるのが、政治家の役割であり、本懐であろう。世論の顔色をうかがっているだけでは務めは果たせない。

 ソ連崩壊は、チェルノブイリ事故から5年後のことだった。国の将来に関わるエネルギー基本計画策定で右顧左眄(うこさべん)しているようでは、日本の将来も危うく暗い。

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