チェン・ヨ・ズン氏【拡大】
■天然ガスめぐる駆け引き激化
ウクライナをめぐる問題は、中央アジアを通る天然ガス輸出をめぐる駆け引きにも影響すると、元フランス外交官チェン・ヨ・ズン氏は分析する。
◆中央アジアに進出
今まで、ロシアはウクライナを通過するパイプラインで天然ガスを欧州に輸出してきた。これまでも、さまざまな理由で機嫌を損ねたロシアがパイプラインの「元栓」を締めて欧州の消費国を苦しめた事件が何度か発生している。今回のクリミア併合というロシアの暴挙に、西欧が効果的に対抗できなかった大きな原因の一つは、この天然ガス依存度の高さがある。
欧州各国はロシアへのガス依存度をいかに下げるかに以前から取り組んできた。カスピ海のアゼルバイジャンからイタリアまで延びるガスパイプラインの巨大国際建設プロジェクトも、ロシアの反対を押し切ってスタート。ロシア産ガスを減らすべく、天然ガスの輸入先の多様化を進める。
一方、ロシアも欧州の景気低迷でガス輸出が伸び悩んだため、巨大市場の中国に売り込みを図った。したたかな中国はロシアの足元を見て買いたたこうとし、値段交渉は難航している。そこへ資源開発と北方領土返還の両方を求めて日本が急接近してきた。ロシアにとっては渡りに船で、シベリア開発への日本の協力を取り付けるだけでなく、「日本カード」を中国にちらつかせることで、対中国ガス輸出交渉を有利に進めようとした節がある。
先のソチ五輪での首脳会談で、中国の習近平国家主席、安倍晋三首相の2人に対するプーチン大統領の対応の使い分け方には、このような両天秤(てんびん)にかける思惑が見え見えだった。先の安倍首相の靖国参拝に対するロシアのやんわりした非難も、この文脈からみると、日本に対する領土と資源の双方の「相場操作」に思えなくもない。