2001年改正以前のNY株式市場では株価の呼び値は8分の1ドル単位だった。平均的な株価である40ドルで計算すれば売りと買いのスプレッドは0.3%あったことになる。この8分の1という単位は古くから米国で使用されてきたメキシコ銀貨をペンチで半分に切って使用した名残である。2分の1を半分にすれば4分の1になり、そのまた半分は8分の1になる。NY市場における「もう一声」は8分の1の銀貨の切片だったのである。投資家は永らく株式売買時の執行コストとして無意識に一部これを負担していた。一方で値付け業者からみればこれはさや抜きの源泉でもあった。今ではこれが1セント単位になり改善されているが、金額が外枠の手数料とくらべてこうしたコストは捉えにくい。
3月末にマイケル・ルイス氏が高速で売買を繰り返す高頻度取引(HFT)を題材とした「フラッシュ・ボーイ」を執筆して、発売日にTV出演で派手にアピールしたこともあって、投資家はHFT業者によって株式売買取引から上前をハネられて随分と「損」をしているとの認識が広まっているように見受ける。しかしこうした直感に訴える損得だけではなく、実は株式市場にはさまざまなコスト要因が存在していることには気が付きにくい。