恐れ多くもだが、かつては「法皇」とまで称された日銀総裁に「ちょっと軽すぎやしませんか」と申し上げよう。無論、黒田東彦(はるひこ)現総裁のことだ。黒田さんは3日、衆院予算委員会で最近の円安について「日本全体のマイナスにならない」と答えた。それまでの発言からしても「円安容認」にすっかり前のめりだ。
産業界では中小企業団体が円安を問題視しているばかりか、経団連の榊原定征会長までもが「これ以上の円安は日本全体にマイナスの影響が大きくなる」と言い出したのだが、黒田さんは我関せずだ。
黒田総裁は日銀が掲げる2%のインフレ目標(消費税率アップ効果を除外)の達成に執念を燃やす。量的・質的両面の異次元金融緩和によって、期待インフレ率を高めて実質金利をマイナスにして、家計や企業の余剰資金を消費や投資に流れ出すようにする。実質金利の低下は直ちに円安につながって、輸入コストを押し上げ、消費者物価に波及する。このシナリオ自体には筆者も同意したが、あとは状況次第だ。
黒田さんはほぼ1年前、金融緩和政策によって消費税増税の負の副作用を相殺できるとして、安倍晋三首相を増税実施に踏み切らせた。それでは異次元緩和やアベノミクスの効果を自ら殺すようなものだと、拙論は疑念を提起した。
脱デフレを果たすためには、インフレ率以上に賃金など家計の収入が伸びる状態を定着させなければならないのだが、金融緩和1年程度で15年以上もの慢性デフレから抜け出すはずはない。黒田日銀はいかにも甘く、機動性に欠ける。