環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉がまた綱渡りの日程となってきた。日米など参加12カ国は3月中旬に米ハワイで首席交渉官らによる事務レベル会合を開く方向で調整していることが20日、分かったが、3月に見込まれていた12カ国の閣僚会合開催は4月にずれ込む可能性が大きくなっている。全体の合意期限は5月上旬との見方もあり、交渉の成否は時間との勝負になりそうだ。(本田誠、ワシントン 小雲規生)
「春先というスケジュールは若干ずれていく」。甘利明TPP担当相は20日の閣議後記者会見で、12カ国の閣僚会合に関してこう述べ、3~5月に開催されるとの見方を示した。
日米はこれまで、2月中にも両国間の閣僚協議を開き、日本の重要農産品の関税の扱いなどをめぐる日米協議の決着をつけたうえで、3月中旬に12カ国の閣僚会合を開催して大筋合意にこぎ着けるシナリオを描いていた。
だが、1月28日から2月3日に米ワシントンで開かれた日米事務レベル協議は「期待したほどの進捗(しんちょく)がなかった」(甘利氏)のが実情で、日米の閣僚協議も2月中の開催は難しくなっている。12カ国全体でも1月26日から2月1日に米ニューヨークで首席交渉官会合が開かれたが、知的財産などの難航分野で意見の隔たりが埋まらなかった。
このため、12カ国は首席交渉官会合を3月9~15日に再度開く方向で調整。米通商専門誌は今月19日、関係者の話として「閣僚会合が1カ月後ろ倒しされることが決まった」と報じた。
交渉日程の後ずれには米議会で大統領貿易促進権限(TPA)法案の提出が遅れていることも影響している。法案は通商交渉の権限を大統領に一任するもので、権限がないと議会の反対で合意内容が覆される恐れがあるため、TPP交渉でも「成立のめどが立つまで譲歩のカードは切らない」とする参加国もある。
米上院で通商政策を扱う財政委員会のハッチ委員長(共和党)はTPA法案を1月中に提出し、2月末までに委員会での審議を終え、3月に本会議での可決を目指す意向を示していたが、事前の与野党の調整が難航。法案は近く提出される見通しだが、なお厳しい審議が予想される。
TPPに慎重な労働組合を支持基盤とする与党民主党では、法案に反対する運動が拡大。本来は自由貿易の推進に積極的な野党共和党の一部にもオバマ政権への権限一任には抵抗感が根強い。ビルサック農務長官は今月19日、バージニア州で開かれた農務省主催のイベントで、TPA法案について「ギリギリの状態にある」と発言。自ら議員らに電話をかけて法案への賛成を求めていると明かしながらも、議会対策の難航をにじませた。
次期大統領選に向けた動きが本格化する今夏以降、交渉の“旗振り役”であるオバマ政権のレームダック(死に体)化も懸念され、「5月上旬には大筋合意に達しないと、交渉は漂流しかねない」(交渉筋)との危機感も強まっている。