【ワシントン=小雲規生】環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に慎重姿勢をとる米国の有力労働組合が、通商交渉での権限を政府に一任する大統領貿易促進権限(TPA)法案への反対を議員に促すロビー活動を強化している。政治献金の停止を表明して議会に圧力をかけており、昨年11月の中間選挙からわずか4カ月で早くも「選挙の影」がちらつきはじめた。労組を有力な支持母体とする民主党ではTPAへの反対論が根強いだけに、TPA法案の提出時期にも影響が出てきそうだ。
「TPAをめぐる歴史的な戦いに資金を温存するため、政治活動委員会を通じたすべての献金を凍結する」。米労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)は11日の発表で、TPA反対を最優先に取り組む方針を明らかにした。
中間選挙を終えたばかりの米国では、大統領選と上下両院選が行われる16年までは時間がある。しかしそれでもAFL-CIOが政治献金凍結を打ち出したのは、「TPA法案への投票行動が選挙で労組からの金銭支援を受けられるかどうかを決めるというシグナルを議員らに送る意味合いがある」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)。
AFL-CIOなど60労組は上下両院議員あての2日付の書簡でも「もしも賃上げ、雇用増、米国の労働者の機会拡大を支持するというなら、TPAに反対せねばならない」と訴えた。
労組がTPP合意に不可欠とされるTPAに反発する背景には、過去の自由貿易協定が製造業の海外流出につながったとの認識がある。AFL-CIOは1994年発効の北米自由貿易協定(NAFTA)で米国の対メキシコ貿易収支が赤字に転じ、これまでに約70万人分の雇用が失われたとのデータや試算を示すなどして、TPPにも慎重姿勢をとっている。
一方、オバマ大統領はTPPは米国企業の輸出や雇用の増加を後押しするとして、TPA法の成立を議会に要請。しかし民主党の下院議員188人のうち142人は、TPA反対を訴えるオバマ氏あての書簡に署名済みで、もう選挙に出馬することがないオバマ氏との温度差がある。
上院で通商政策を管轄する財政委員会では、民主党側代表のワイデン上院議員が共和党との歩み寄りに慎重姿勢を維持しているもようで、TPA法案の提出時期は4月にずれこむとみられている。ワイデン氏自身が16年の改選を控えて「労組からの圧力を強く受けている」(米紙ワシントン・ポスト)だけに今後の協議も曲折が見込まれそうだ。