「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角(とかく)に人の世は住みにくい」と嘆いたのは夏目漱石『草枕』だが、年の瀬に、来年の日米両政権の行方を想像してみると、各所に配慮して「流される」安倍政権と、各所と遠慮なくネゴシエーション(交渉)をして「窮屈になる」トランプ次期政権という姿が浮かび上がってくる。
「今年の春頃は『夏の参院選さえ終われば、両院で多数を抑え、支持率の高い安倍政権下、骨太な改革がどんどん進む』と期待したが、実際には党内の有力者たちはもちろん、公明にも配慮がいるし、野党もいろいろと言ってくるし、簡単ではない。甘かった」。先月末に酒を飲んだ古巣、経済産業省の先輩の言葉だ。
実際、「骨抜き」との報道が多い自民党の農業改革案が代表例だが、各所で大胆な改革が進んでいるとは言い難い。それでも、まだ遅々としながらも改革が進むならばいい。各所に配慮しすぎて大目標がぼやけ、「本末転倒」になってしまうケースは最悪だ。税制改正における配偶者控除の見直しは、その典型に見える。
そもそも「103万円の“壁”」と揶揄(やゆ)されていたように、夫の配偶者控除のため妻が仕事量や年収を枠内に無理にとどめるのはおかしいと、壁撤廃が改革の本旨だった。さらにその際、政権が掲げる大目標(新3本の矢)の一つが、現在約1.4しかない出生率の向上(1.8)であり、人口1億人水準の維持であるところ、子育ての環境を損なわないことは、何より当然に考えるべき前提のはずであった。
配偶者控除は、そもそも多産が当然で子育てに尽力する主婦層を多分に意識して設計されたものだ。特に、各種調査から明らかだが、「希望出生率(約2.8)」まで子供を持てない主因が経済的理由なので、子育て世代への金銭的負担増は絶対に避けなければならない。