ただ、他の海外メーカーを見てみると、ルノーはとてもうまくやっている。ルノーもヨーロッパやアフリカなどではメジャーブランドだが、日本ではフォード以上に少数派だ。ディーラーも見かけない。でも、ルノー・ジャポンはニッチなモデルばかりを率先して輸入している。輸入販売するばかりでなく、『カングー』のイベント「カングージャンボリー」を毎年主催するなど、少ないユーザーを大切にしている。
何しろ、2015年のイベントには1014台もの『カングー』(他のクルマも含めると、なんと1773台!)が集まるのだ。2015年のカングーの登録台数が1700台余りだから、参加台数の多さがわかるだろう。“日本で最も売れているルノー車はカングー”という事実を上手に活用して、少しづつルノーブランドの認知を広げようとしている。
近年のフォードは全世界で「ONE FORD」という戦略を推し進めている。「販売される地域に地理的にもマーケティング的にも近いところで、なるべく生産する」という戦略によるものだ。日本で販売される『フォーカス』はタイ工場で、『エコスポーツ』はインド工場で造られていた。『マスタング』は初めて右ハンドルを造るが、ヘリテイジを重視しているため、頑なにデトロイトで造る。単に効率を求めるだけでなく、ブランド価値も重視して世界中にある生産拠点をフル活用している。モノ造りの思想として最も進んだものだ。

フォード経営陣の判断の詳細についてはわからない。TPPの影響を指摘する人もいる。でも、やりようによってはうまく経営を続けることもできたのではないか。少しずつだが良いほうに進んでいたように映っていた。そう考えると残念でならない。


文/金子浩久
モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。