「日米自動車摩擦のなかで、輸出台数ではなく1台あたりの利益を引き上げる必要が生じたため、アメリカにおける最高級車『クレシーダ(日本におけるマークII)』をもっときちんと作って売れるようにしなければというのがLS400開発の発端でした。開発過程で英二さんが、創業50周年(1987年)を記念するのにふさわしい、これまでウチが作れなかったようなものにしようと言い出した。それまでやったことがないようなモノづくりのやり方にトライした結果、LS400は大成功を収めましたが、高級車ブランドをやるんだという覚悟を持って臨んだわけではなかったため、かえって自分たちの立ち位置がわからなくなりました。初代がヒットしたとき、社内ではその後の方向性が定まらないことを指して“海図なき船出”と言われていたんです」(トヨタOB)
初代LS400のチーフデザイナーを務めた内田博邦・名古屋造形大学客員教授は言う。
「レクサス成功のカギを握るのは、クルマづくり、ブランドの両面でレクサスがトヨタから独立した存在になれるかどうかだ。レクサスで使うものはデザイン要素であれ技術であれ、トヨタには使わないというくらいの決意がなければ、そうはならない」
レクサスブランドの再生を託された福市は、2011年1月に出向先からトヨタに呼び戻されてデザインディレクターとなって以降、レクサスの独自性を確立するための第1のトリガーとしてデザインを挙げ、大型・異形のラジエータグリル「スピンドルグリル」をはじめ、レクサスデザインの語法を大胆にチェンジさせてきた。その成果は欧州Dセグメントに相当するスポーティセダン「IS」、中型SUV「NX」、大型SUV「RX」にみることができる。