ラスベガスの劇場では、9方向へと向けられた9台のカメラが、動き回る役者たちを撮影し、セリフや唄、音楽をとらえていた。これを「MMT」と呼ばれる、映像や音声、字幕といった様々なメディア情報を絶対時間で同期させ、ズレが生じないようにする技術で処理し、伝送した。これにより、役者が何枚も連なるスクリーンを自然にまたいで立体的に動き、それにセリフや唄がピタリと重なった映像を、日本でも鑑賞できるようにした。
この技術を使えば、奥行きを持った舞台でも、離れた場所に臨場感ともどもリアルタイムで再現できる。今回とは逆に、日本の歌舞伎公演を世界にリアルタイムで発信していくことも可能。フィールド上を動き回るスポーツの中継でも利用できそうだ。
2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催をひとつの目標に、「ICT(情報通信技術)を使うことで、様々な分野に新しい価値を見いだすこと」(NTT副社長の篠原弘道氏)に取り組んでいるNTTにとって、この実験は大きな一歩となった模様。松竹にとっても、「400年の歴史がある歌舞伎は、先輩たちが伝統を重んじつつ新しいことに挑戦してきたから今日がある。NTTの技術力を得て、世界中のお客様に感動をお届けしていきたい」(松竹社長の迫本淳一氏)と、NTTとのコラボレーションに期待を示した。
4Kマルチライブビューイング実施に際しては、ラスベガスで舞台に立った歌舞伎役者の市川染五郎さんが、現地にいながら日本の舞台に立っているような雰囲気で挨拶を行い、質問への受け答えも行った。立体感や臨場感を持った映像を投影するNTTの技術「Kirari!」を使ったもの。この技術は、4月29日と39日に、ドワンゴ(東京都中央区)が幕張メッセで開催した「ニコニコ超会議」で実施された舞台「超歌舞伎」でも利用され、従来にない演出を見せて観客を驚かせた。