同社最大のターミナルである渋谷駅周辺では列車の本数が多く、設備が劣化しやすい事情もある。日中でも作業できる地上と異なり、地下での点検は終電から始発までに限られるなど保守作業にも制約がつきまとう。
大量退職時代 ベテラン整備士が減少
東急電鉄は鉄道事業と不動産業を同時展開することで線路と市街地を一体整備する「街づくり」を売りにしてきた。
渋谷駅から二子玉川駅までが新玉川線として先行開業した田園都市線は、地下化や高架化を駆使することで開業時から道路との立体交差を実現。他社の地上路線は立体交差に莫大(ばくだい)な費用をかけているのに対し、当初から安全で先進的な沿線イメージをつくりあげてきた。
こうした取り組みが数十年経過する中で裏目に出ていることになる。国交省鉄道局の関係者は「東急はブランドイメージづくりに懸命な印象があり、本来の鉄道事業がおろそかにならないか懸念していた」と明かす。
「地下鉄事業者と比べて東急は地下区間整備についてのノウハウや技術の蓄積が不十分な可能性もある」と述べるのは、工学院大学工学部の高木亮教授(電気鉄道システム)。高木教授は「どのくらいで設備交換が必要なのか研究が必要。地下区間は想定より早く劣化している可能性もある」と指摘する。
これを裏付けるような推論も社内に出ている。別の東急幹部は「まだ具体的な根拠はないが」と前置きしつつ、「施工時点で、想定されていない何らかの不十分な部分があり、金属の腐食などの障害が早く進んでいる可能性もある」と推し量る。
大量退職時代を迎える中で人的な要因も挙がる。この幹部は「現場を見ただけで不良部分が分かるようなベテラン整備士が減った。業務が増える一方で外注業者に頼りがちな面もある」と危機感を強める。東急は緊急点検を進めるとともに、定期点検の頻度や方法を強化する方向で対策を進めるという。