56年からケーブルカーの運行に携わっている近鉄信貴生駒鋼索線区の小西幸治係員(61)は「手動運転だった当時、走っているときは一瞬も気が抜けなかった。最初は運転が恐ろしくて夢にまで見た」と振り返る。
生駒ケーブルは1本の鋼鉄製ロープで車両2台をつなげ、運転台の真下にある巻き上げ機で急斜面を走らせる仕組み。手動運転では上りと下りの乗客数に応じ、停車時にブレーキをかけるタイミングを見極める必要があり、熟練の技術を要したという。
運転の自動化は、運転士の負担軽減と一層の安全性をもたらした。導入から33年になるが、車両トラブルなどによる事故は一度も発生していない。「先人たちの築き上げた歴史を受け継いで、これからも安心安全な運行を続けたい」と同鋼索線区の黒川さんは言う。
現在運行中の車両は計6両。このうち平成12年に導入された4台は、愛らしいデザインが目を引く。鳥居前-宝山寺間を走る「ミケ」と「ブル」はそれぞれ三毛猫とブルドックがモチーフ。宝山寺-山上間を運行する「ドレミ」と「スイート」はパステルカラーを基調とした外観だ。
28年度の乗降客数は約39万人。統計を取り始めた昭和50年度の約152万人から年々減少しているが、明るい兆しもある。訪日外国人客の増加だ。生駒山が観光スポットとして口コミやネットで広がっているようで、「(外国人に)聞いてみると、みんな『景色が見たい』と言う。珍しそうに車両の写真もよく撮ってくれている」と黒川さん。
生駒市の小紫雅史市長(44)も「ケーブルカーは市になくてはならない存在。今後も市の顔として、宝として発展してほしい」と話している。