なぜ、「ペットボトルに詰めた水道水」が売れたのか (4/5ページ)

 カーネマンは、こんな実験をした。学生を集めて、2グループに分けた。まず、宝くじ当選番号を決める際に使う回転式円盤を回して、出た数字を彼らにメモらせた。円盤は、一つのグループでは必ず10で、もう片方のグループでは必ず65で止まるように細工をしてある。その上で二つ質問した。

 質問1: 国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率はその数字より大きいですか?

 質問2:では、比率は何%ですか?

 質問2は、円盤で出た数字とはまったく無関係である。しかし質問2の回答は見事に分かれた。

 「10」を見せられたグループの平均は、25%。

 「65」を見せられたグループの平均は、45%。

最初に見せられた数字の影響を受けている(写真=『なんでその価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」』)

最初に見せられた数字の影響を受けている(写真=『なんでその価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」』)

 「そんなバカな」と思うかもしれないが、事実である。カーネマンはアンカリング効果と名付けたこの現象について、「人は無意識に最初に見せられた数字に大きく影響される」と説明している。このアンカリング効果こそ、私たちがお金を出してミネラルウォーターを買う行動がやめられない理由を解き明かすヒントになる。

 1本100円のミネラルウォーターが定着した理由

 1980年代までは、ミネラルウォーターは普及せず、水道水を飲むのが常識だった。当時、東京の水道水はまずかった。1984年の利き水大会では、東京の水は全国12カ所で最下位。私は田舎に行くと、水がとてもおいしくて感激したものだ。

 さらにこの頃、採水地付近の工場排水の問題がメディアで大きく報道され、人々は「水道水には発がん性物質のトリハロメタンが含まれて危険だ」と考えるようになった。そんななか、1990年代に「安全でおいしい水」としてミネラルウォーターが登場。普及するようになった。

 そして私たちは、「ペットボトルのミネラルウォーターは、おいしくて安全」「タダ同然の水道水は、まずいし危険」と考えるようになり、1本100円のミネラルウォーターが、私たちの生活にすっかり定着したのである。

水道局も努力をしてきた