≪TEAM≫
タッチフォーカスは、三井化学が一から開発したわけではない。E-Glass事業開発グループの早瀬慎一リーダーと村松昭宏開発リーダーは、もともとパナソニック子会社のパナソニックヘルスケア(PH)社員だった。
PHは、電子眼鏡の特許を持つ米国のベンチャーと共同開発していた。PHが自社の技術を生かしながら仕上げた製品を、ベンチャーが買い取って売る手はずだった。開発開始から3年後の2011年には、米国での試験販売にこぎ着けた。
ところが、相手のベンチャーは開発資金がショートし、倒産してしまう。そのころPHも投資会社に売却されることが決まっており、電子眼鏡の事業化は断念する方向となった。何とか事業を存続させようと早瀬氏らが奔走したところ、関心を示し、14年に事業ごと買い取ったのが三井化学だった。
三井化学は、1987年に参入した眼鏡レンズ材料で、世界トップの地位を築いていた。さらに事業領域を目の健康全般に広げた上で、「タッチフォーカスを通じて一般消費者向けビジネスにも挑戦しようと考えた」(村松氏)のだという。
三井化学には当初、早瀬氏と村松氏を含む7人だけが移籍した。しかし、念願の国内発売を果たした現在は、その後に合流した元同僚や同社の生え抜き社員などを含め、40人を超えるまでになっている。
タッチフォーカスには、三井化学が長年の事業で培った素材技術が役立てられている。一方、同社は一般消費者向け商品を扱うことで、事業領域を拡大するだけでなく、市場ニーズをより的確に把握できるようになった。村松氏は「文化の違いはあったが、(三井化学に移って)2年後ぐらいから相互理解が進み、融合していった」とチームワークの成果であることを強調している。
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≪MARKET≫
■団塊ジュニア40代にも的
国内眼鏡市場は長期にわたり低迷が続いてきた。2000年代に入り、商品企画から製造・販売まで一貫して手掛ける格安眼鏡チェーンが台頭。現在も攻勢をかけている。このため低価格化が進み、1990年代初頭に約6000億円あった市場規模は2009年ごろには4000億円程度まで落ち込んだ。
矢野経済研究所の調べによると、16年の市場規模(小売りベース)は5045億円。5年連続でプラスとなったものの、完全復活には程遠い。
ただし、明るい兆しも出始めている。近年は、紫外線(UV)や疲れ目の原因とされるブルーライトといった有害光線、花粉への対策を施した高付加価値品が増加。レンズを高機能化したり、視力検査を充実させたりして、フレーム以外で稼ぐ動きもある。
さらに業界が期待をかけているのがシニア層だ。既に主要ターゲットとなっている団塊世代に加え、団塊ジュニア世代も老眼になり始めるとされる40代になっている。三井化学は、こうした40~50代の「ミドルシニア層」にもタッチフォーカスを売り込んでいきたいという。