アイシングクッキー専門店を営む小林由佳さん(29)は昨年9月に入居。一つ作るのに6時間かかるという舞妓(まいこ)型やがま口財布型などかわいらしいクッキーが並ぶ店頭で、「(路地で店を出せるのは)一生にあるかないかの貴重な経験。好きなことを自由にできるのがうれしい」と話す。
昨年10月に革小物専門店を開いた松島健二さん(32)は、職人として活動する傍ら、入居の機会をうかがっていた。「前の入居者が出たので、タイミング良く入れました。僕を目当てに路地に来てくれるような製品を作りたい」と意気込む。
入居者の「お母さん」
長屋の家主、安食(あじき)弘子さん(71)は、若手職人に部屋を貸す取り組みを平成16年に始めた。家賃は1軒あたり6万円。建物の修繕は家賃だけではまかなえず、私財を投入することも多い。そこまで献身的になれる理由は、幼少期の経験にある。
老舗商家の長女として生まれ、幼くして父を亡くしたが、母の「やりたいことをやりなさい」との言葉で彫金や七宝焼に打ち込んだ。金属工芸作家として生きていきたかったが、結婚と出産を機に夢を諦めた。
その一方、代々受け継いできた長屋は長年空き屋となって活気を失い、老朽化も進んでいたが、手放すことに抵抗があった。そんな中、若いころの記憶がよみがえってきた。「母が私を応援してくれたように、私も頑張っている若い子を応援したかったんです」と安食さん。