日本伝統文化振興財団の藤本草(そう)理事長によると、明治末から昭和30年代までの約半世紀に国内で制作されたSP盤の音源総数は、約10万と推定されるという。このうち約半数は原盤として発売元のレコード会社が保管しており、この原盤を中心に、同財団や日本レコード協会など6団体が平成19年に設立した「歴史的音盤アーカイブ推進協議会」によってデジタル化が進められた。一方、残る半数は民間愛好家や資料館が所蔵する一部を除いて散逸・消失してしまったとみられる。
後藤新平や東条英機…
「れきおん」には、民謡や歌謡曲、落語、講談など当時市販されていたさまざまな娯楽音源が並んでいる。その中で、現在の目から見て不思議に映るのが、政治家の演説レコードの多さ。ネット利用が可能なものに限っても、関東大震災後の帝都復興院総裁を務めた後藤新平(1857~1929年)の「政治の倫理化」(大正13年)や、戦時中の首相、東条英機(1884~1948年)の「大詔を拝し奉りて」(昭和16年)など多数にのぼる。なぜ、こうした娯楽とはほど遠いレコードが数多く制作されたのだろうか。
音楽史研究家の郡修彦(こおりはるひこ)さんは「テレビやラジオがなかった時代、レコードこそが時間・距離を超えて演説を届ける画期的な情報発信メディアだった」と指摘する。