その上、本書で初めて知ったが、大正末期から昭和の初め、映画製作に乗り出し、制作会社を設立していた。これには失敗し、夜逃げ同然で東京へ。同じ時期、小説の執筆も始めていたから、とうてい一つ身では足りない。また一文なしのはずが、外車を乗り回し、飛行機搭乗は「最高回数」を誇る極めつきの浪費家でもあった。作品より人生の方が面白過ぎるのが難点か。
しかし著者は、代表作『南国太平記』を高く評価し、とくに「微細な『生理的』な描写に優れている」と言う。さらに「剣劇描写」に「リズムがあり鋭角的」である点に、映画製作の影響を指摘するなど、読みが鋭い。小説の鑑賞に優れた研究者なのだ。
『南国太平記』は周囲に絶讃され、大衆作家としての不動の地位を得ながら、病魔に襲われ余命は数年。「激痛と執筆と金の三重苦」の果てに死去。文学碑に刻まれた「芸術は短く貧乏は長し」一生を、最後まで見届けたこの評伝は、忘れられた作家への、何よりもの餞(はなむけ)だ。(山崎國紀著/ミネルヴァ書房・本体3500円+税)
評・岡崎武志(書評家)