『スープ』細川亜衣著(リトルモア・2300円+税)【拡大】
話が脱線したが、亜衣さんのキッチン内での動きは、その手際のよさ、スピード感、無駄のなさなど、どのひとつをとっても、やはりそれでメシを食っていける人だなあと感じるに足るものだった。なによりもキッチンに立った途端に目つきが全くそれまでの雰囲気と変わってくるのはさすがだ。
「スープ」には、亜衣さんの小さいころのちょっとした出来事や旅行のときのエピソードなど、さまざまな思い出が語られている。
ひとつのスープ皿やカップにそんな思い出の数々が盛り込まれているわけだが、「食」というのはそもそもそうした生活体験から育まれていくもので、誰にでもあるそうした体験から料理が語られていることが、読みやすく、楽しいエッセーにつながっているのだろう。
ともあれスープだけで一冊の本ができるというのは、男では考えられないことだと思う。(リトルモア・2300円+税)
評・細川護煕(公益財団法人永青文庫理事長)