『朝露通信』保坂和志著(中央公論新社・2000円+税)【拡大】
これは新聞小説だった。そのことを強調するように連載1回ごとに大きく番号が振られている。しかし、必ずしもその順番に読まなければならないわけではない。どこから読んでもこの味わいは変わらない。漱石も、小説はふと開いたところから読めばよいと「草枕」では言っていたが、「こころ」のような新聞小説では、ミステリー的な話の展開で読者を引っ張る方法に頼った。一方、新聞という近代的時間の浸透装置の中にあってあえてそれを緩やかに攪拌(かくはん)する保坂のこの文章に身を委ねるとき、読者はいまだ見たことのない鎌倉や江の島に対するノスタルジーをかき立てられ、会ったことのない奈緒子姉やエモッちゃんと旧交を温めることになるだろう。(中央公論新社・2000円+税)
評・伊藤氏貴(文芸評論家)