「特別快速館山行き」が木更津駅を過ぎると、右手の窓いっぱいに太平洋の海が広がった。雲ひとつない絶好の海水浴日和。
千葉駅から乗り込んできたビーサンをはいた若いカップルは、小さな声でくすくす笑い合いながら、まだ午前中だというのに、コンビニのレジ袋で覆った缶ビールと缶チューハイをこっそり飲んでいる。男性はすでにサーフパンツをはき、おそらく女性も、タオル地のサマードレスの下に水着を着ているに違いない。涼しい車内にいるのであまり実感はないが、今日も暑くなりそうだ。
生活感とリゾート感がせめぎ合っている車窓から、魅惑的なフレーズが次々と飛び込んでくる。なになに。「木更津温泉」「日帰り入浴」「漁師料理」「貝焼き食べ放題!」「おみやげ・直売所」。下車しない(いや、できない)。そうわかっていても、つい浮き足立ってしまう。ビーチだよ、ビーチ…。
「ここで下車したら、大回り乗車はこの時点で終了です。不足分の運賃を支払ってください」。ミスター・スジ鉄のクールな声に、現実に引き戻される。