三浦半島から富士山まで、抜群の眺望を誇る内房線が“海のハイライト”なら、“陸のハイライト”は、7本目に乗り継いだ「成田線各停我孫子行き」だ。
ギラギラと輝く太陽に熱せられた、湿った土と草のむわっとした香りが車内を満たし、遠くには、黄金色に輝いているひまわりの畑。あおあおとした水田を眺めつつ目を休ませる。なぜなら、朝いちから片時も手放さなかったスマホの充電が、そろそろ尽きかけているからだ。
「下総松崎(しもうさまんざき)」「安食(あじき)」「布佐(ふさ)」など、物語が潜んでいそうなユニークな駅名も旅情をそそる。“日本の原風景”と呼びたくなるような、どこかなつかしい光景が続き、半日をかけて遠くまで旅をしてきた実感が、ふつふつとわいてくる…。
「何を言ってるんですか。ここは上野か日暮里から常磐線に乗れば1時間ちょっと。通勤圏内ですよ」。ミスター・スジ鉄に、再び現実に引き戻される。
そう、うっかり忘れかけてしまったが、ここは東京の「大都市近郊区間」なのだった。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら