「ワインはグラスでオーダーしても、きちんと量ります。食べられなかった料理やワインは持ち帰りも可能。スイスの列車だから無駄がなく合理的ですよ」。
ウェイトレスが遠慮がちに、この席はガイド用ではないことをやんわりと伝える。しかし彼女は悪びれることもなく「料理を食べるわけでもなく、空いているスペースなのだから、かまわないだろう」と座り続けた。合理的だ。
メニューには冷菜やその日の料理、スープ、魚、ベジタリアン料理などアラカルトもあるが、団体客は3皿のセットメニューを注文する。手際よくスピーディに提供されて合理的なのだ。私も流されるようにして、セットメニュー43スイスフラン(約5420円)をお願いした。
くだんの北京の女性ふたりは、日ごろからお酒を飲まないそうで、なんと「車内が騒々しい」と、前の車両にエスケープしてしまった。酒呑みの私にとっては、このくらいの喧噪はむしろ好ましい。
「余したら持ち帰る」はずだった白ワインは、言うまでもなく、いつのまにか飲み干してしまっていた。
■取材協力:スイス政府観光局/スイス インターナショナル エアラインズ/スイストラベルシステム
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら