そんなわけで、車内でくつろぐのも一案だが、私はホームを散策した。というのも氷河特急は「マッターホルン・ゴッタルド鉄道」と「レーティッシュ鉄道」という私鉄2社により運営されていて、この駅でオペレーションがマッターホルン・ゴッタルド鉄道からレーティッシュ鉄道へと切り替わる。2社が目指す“乗客のためのシームレスな旅”(これについてはまた後日)を実現するために、客車や客車付き乗務員はそのまま乗務するが、客車を牽引する機関車や運転士、バックヤードのスタッフは入れ替わる。
マッターホルン・ゴッタルド鉄道の機関車は、あっという間に切り離され、レーティッシュ鉄道の機関車にさくっと付け替えられた。レーティッシュ鉄道の運転士によると、ここまでのルートはアルプスの険しさを体感する急勾配が主役の“たて位置”の景観、これから先は雪解け水や橋、蛇行ルートを含む“横位置”の景観が楽しめるそうだ。
ライン峡谷を過ぎ、クール駅を出発してしばらくすると、列車は2008年に世界遺産に登録された「アルブラ線」を走行する。天気も上々。新しい旅がもう一度はじまる気分で、私は再び一等車に乗り込んだ。
■取材協力:スイス政府観光局
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら