当然ながらアウトソーシングや下請けへ無理がききやすい企業力も無視できないとは思うが、この経験が27歳の村田さんを変えた。
30歳には独立ブランドを立ち上げたいと考えてきた。ジル・サンダーで仕事をする前は、ビジネス担当のパートナーさえ見つければ、自分のクリエイティブ能力だけで勝負をすればよいと確信していた。
しかしクリエイターにも得意不得意がある。新しいイメージを生むのが得意な人が、それをカタチにするのが必ずしも得意なわけではない。それぞれが得意な分野でチームを作ってこそ質の高いデザインに到達する味を知った今、独立するにも複数のデザイナーと組もうと思い始めた。
「人数が多ければいいというわけじゃないですが、個人技のクリエイティブの限界も見えた」と語る。
チームによる強さを別の点でも感じている。
ジル・サンダーのデザインチームはさまざまな国の人たちが集まっているため共通語は英語だ。イタリア語も使うが、英語のより直接的な表現が感覚を刺激することもある。また日本語の「モワッ」「カチッ」という表現が出てくることもある。
言葉で表現しきれない時は絵で示せるスキルを持った人たちだ。生地や服も目の前にある。したがって言葉の意味や意図の誤解を回避する術はある。だからこそ豊富な言語表現に躊躇なく皆が没入できる。
こうして村田さんの経験は深まる一方だ。毎晩遅くまで働き、週末も仕事になることが多いが、ファッション以外の領域にも関心を持ち続けている。