だが椿峰ニュータウンの開発に当たっては、この歴史ある緑豊かな景観がうまく生かされた。なんでもかんでも木を伐採して、土地を平らにするニュータウンとは異なる、風情のある住宅地がここに生まれた。
ただし、後期高齢者が増えるこれからの時代には、起伏の多い地形が負担になる危険もある。新しい交通手段が必要になるだろう。
【2】鳩山ニュータウン(埼玉県比企郡鳩山町)
鳩山ニュータウンに初めて行ったのは2012年の春だ。『東京は郊外から消えていく!』(光文社新書、2012年)の取材としてだ。鳩山ニュータウンについてはかねてから関心があった。赤坂憲雄の『排除の現象学』(洋泉社、1986年)という本を1980年代に読んでおり、そのため、とても排他性の強い街という悪い印象を持っていたので、いったいどんなところかとずっと思っていのだ。
だが、実際に行ってみると、まったく違った。素晴らしいニュータウンなのだ。田園都市の研究を踏まえて設計されていることは明らかだった。その後、鳩山ニュータウンの開発関係者に聞いたところでは、米国の郊外住宅地を相当研究したそうだ。
タウンセンターから下っていく街路には、街路樹があり、かわいいデザインのタウンハウスが建ち並んでいる。そこを下りきると池がある。山の上を切り開いたこのニュータウンは、なだらかで長い斜面上につくられている。山側のほうは里山が残されていて、散歩道が整備されている。1年中、四季折々の自然を楽しみながら散策ができるだろう。
しかし鳩山ニュータウンはあまりにも都心から遠い。そのため若い世代が流出し、ニュータウンの高齢者率はすでに45%もあるという。
なお、80年代における赤坂氏の評価が間違っていたとはかぎらない。その時点では、一流企業勤務の人が多いニュータウンが突然山の中にできたら、宇宙人がコロニーをつくったかのように見えたかもしれない。地元とは異質なものが突如現れるのがニュータウンの特徴だ。それが30年以上って、景観が成熟し、地域全体の中になじんでくると、それはそれでまた、えもいわれぬ田園都市ができあがる。新しい街の評価というのは、だから難しい。
【3】金沢シーサイドタウン(横浜市金沢区)
このニュータウンの並木1丁目は、日本を代表する建築家・槇文彦氏がアーバン・デザインを手がけた。同2丁目は神谷宏治、内井昭蔵、宮脇檀、藤本昌也という4人の建築家の手による。
海沿いの低地とは思えない豊かな緑。富岡八幡宮の森もある。そして多様な街路空間と多様な形式の住居。かつて杉並区にあった阿佐ヶ谷住宅という名作団地をすら彷彿とさせる。