濁る「シベリアの真珠」 生態系危機 バイカル湖 観光開発で汚染深刻化

 

 世界で最も深く透明度の高い湖として知られるロシア東シベリアのバイカル湖で、水質汚染が深刻化しつつある。周辺の観光開発による湖水の富栄養化が原因とみられる。生息する千数百の動物種のうち、約1000種が固有種という独特な生態系が脅かされており、「シベリアの真珠」と称される湖を守ろうとロシア政府は対策に乗り出した。

 旅行者増え富栄養化

 波打ち際の水は一見澄んでいるが、転がっている石に緑色のコケのようなものがびっしり付着する。「アオミドロ類の藻の繁殖が近年著しい」。ロシア科学アカデミー・シベリア支部付属の陸水学研究所(イルクーツク)のオボルギン主任研究員はそう話した。

 ソ連時代から水質汚染の源とされた南岸の製紙工場は近年閉鎖されたが、現在の汚染の主因とみられるのは観光開発だ。

 ロシア紙によると、バイカル湖を最大の観光資源とするイルクーツク州の昨年の外国人観光客は前年比約86%増の約15万人。増加分の多くは中国人だ。研究所のグラチェフ所長も「人間の活動で湖が富栄養化している」と危機感を募らせる。

 湖畔の村リストビャンカにはホテルや飲食店が並ぶ。対岸の湖東岸などでも開発が進んでおり、環境活動家のネフロゾフ氏は「近年参入した中小企業のリゾート施設では、下水や廃棄物対策がなされていない場所が多い」と指摘する。

 現地を訪れた滋賀県立琵琶湖博物館(草津市)の桑原雅之総括学芸員は、バイカル湖の貴重な生態系は「高緯度で貧栄養」という特殊な環境が支えていると説明する。琵琶湖博物館はリストビャンカのバイカル博物館と協力協定を結んでいる。

 下水処理設備ない施設閉鎖へ

 桑原氏によると、バイカル湖は寒冷地で水量が巨大なため水温が上がりにくく、藻などの繁殖が抑えられてきた。湖の深い部分にまで酸素が届いて深層でも生物が生息することができ、固有種発生につながった。

 富栄養化が続けば、世界唯一の淡水アザラシを頂点とした「ロシアのガラパゴス」と呼ばれる貴重な生態系に打撃を与えるのは必至だ。ロシア政府も看過できず、ドンスコイ天然資源環境相も7月、下水処理設備のない施設を閉鎖する方針を表明した。

 しかし、昨年のウクライナ危機後の経済悪化を受け、今年のバイカル湖の環境保護予算は昨年比で2割減った。湖に流入する川ではモンゴルが発電用ダム建設計画を明らかにするなど、開発構想もある。

 グラチェフ氏はロシア政府の富栄養化対策は「不十分」と指摘。滋賀県が琵琶湖の水質改善のため、リンを含む洗剤などを規制する条例を制定したのに倣い、抜本的な対策を急ぐ必要があると訴えた。(共同/SANKEI EXPRESS